熊とだるまさん
2007年9月執筆。
熊の写真撮影って難しいです。ラッシアンリバー付近に出没する半野生の熊ならともかく、本当の野生の熊は人間を恐れるので、こちらの存在に気づくとぴゅーっと逃げていってしまいます。
ちなみに、「アラスカに住んでいると、熊なんてしょっちゅう見かけるんでしょう?」と言われることがありますが、残念ながらそんなことはありません。アンカレッジでオフィスの仕事をしてインドア中心の生活をしていれば、野生の熊を見かけることはまず無いと思います。現に私の上司は25年間アラスカに住んでいて、まだ一度も野生の熊を見たことが無いそうです。
今回は、プリンスウィリアムサウンドへシーカヤックに行ったときの熊の写真撮影の様子を紹介します。
● 遡上する鮭 ●
今回シーカヤック旅行の際に利用したキャビンの横には、鮭が遡上してくる川が流れている。
カヤックで行かれるぎりぎりの所まで進むとパドルで鮭に触れることができるほど
鮭がうじゃうじゃいる。こういうところは熊にとって天国であろう。
● 一休み ●
写真撮影している私の足元に寄りかかり、一休みする鮭。
● 食べ散らかし ●
熊が鮭を食べ散らかした跡。
鮭が豊富にいるので、捕まえた鮭は全て食べない。
おいしいところだけかじってあとは残す。
● 究極のグルメ ●
食べ散らかされた鮭を見てみると、額の部分だけ一口かじられている鮭が
沢山転がっていた。恐らくこの部分が一番油がのっていておいしいのであろう。
● お食事中の方、失礼します ●
熊の糞の中には消化されずに出てきたベリーの種が沢山。
● 熊登場 ●
熊が現れた。これは小熊。
気持ちよさそうに水の中を泳いでいる。
でもカヤックを見て驚いた小熊は一目散に逃げて行く。
また別の日に鮭の遡上する川へ行ってみる。
いたいた・・・。熊が数頭鮭獲りをしている。
ゆっくりとカヤックを進める。
そして熊の見えないところでカヤックから降り、徒歩で近づく。
● 何かおかしい・・・ ●
こちらの気配を察し、後足で立ち上がり私たちを観察する熊。
食べかけの鮭の内臓が口からぶらーんと下がっている。
熊は視覚が悪いので、人間からすると「はっきりこっちのこと見えてるだろう」と
言う距離内にいても、こちらの存在が目で認識できない。
恐らく私たち人間のことはぼやーっとした塊に見えているのだろう。
この熊の視覚の弱さを利用して、熊が鮭を食べるのに夢中になっている時に
ゆっくりゆっくり熊に近づき、熊が顔を上げたらこちらは動作を止める。
そしてまた熊が鮭を食べだしたらゆっくりと近づく。
この方法だと結構近くまで寄ることができる。
● 逃げろ~!! ●
でも人間がいることがはっきり分かると、熊は一目散で逃げていってしまう。
この「そーっと近づいて、熊がこちらを見たら動きを止める」と言うのを
繰り返しているうち、私の頭の中にふとひらめいた言葉がある。
「だるまさんが転んだよ」だ。誰もが子供のときに一度は遊んだことのある遊びであろう。
ルールは、鬼が目隠しをしている時に残りのメンバーが鬼に近づく。
そのときに「だるまさんが転んだよ!」と言って、最後の「よ!」で鬼が目を覆っている
手を顔から離して近寄っているメンバーを見る。
鬼に体が動いているのを見られたらアウトだ。
私たちが熊の撮影の時にしていた動きは、まさにこの「だるまさんが転んだよ」であった。
だ~る~ま~さ~ん~が こ~ろ~ん~だ~・・・
よ!
人間一同、ピタリと動きを止める・・・
● 熊のガン飛ばし ●
そんな「だるまさんが転んだよ」に段々怪しいものがあると感じ始めた熊ファミリーは
一ヶ所に固まり、こちらの様子をじーっと見ている。
中央の一回り大きなのが母親熊であろう。
あとの3頭は子供たち。みんな隆々とした筋肉(?)と
ふさふさの毛で覆われており、熊と言うよりもゴリラに見える。
左側の子供は、こちらにお尻を向けて捕まえた鮭を食べている。
● 鬼の退場 ●
こちらの存在に完全に気づくと、その場から退場。
そのまま森の中へと消えていった。
前述のガン飛ばしの写真とはうって変わって、後姿になると突然かわいらしい熊達。
本当の「だるまさんが転んだよ」の最後は、メンバーが鬼にタッチして逃げると言うものだが
さすがに熊相手にそこまではやらない。